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静岡地方裁判所沼津支部 昭和44年(ワ)90号 判決 1970年6月22日

原告

鈴木明

ほか二名

被告

斎藤文雄

ほか一名

主文

被告等は各自原告鈴木明に対し金六十三万千四百十三円原告鈴木進同鈴木健に対し各金七万千四百十三円及び右各金員に対する被告鈴木和雄は昭和四十四年三月十八日以降、被告斉藤文雄は同年同月二十六日以降各支払済にいたるまで年五分の割合による金員を支払え。

原告等のその余の請求を棄却する。

訴訟費用はこれを五分しその二を原告鈴木明のその一を原告鈴木進のその一を原告鈴木健の、その一を被告等の各負担とする。

この判決は被告等に対し原告鈴木明が金十五万円の、原告鈴木進同鈴木健がそれぞれ金二万円の各担保を供するときは第一項に限り仮りに執行することができる。

事実

第一、当事者の求める裁判。

原告等訴訟代理人は「被告等は各自原告鈴木明(以下単に原告明という)に対して五百一万六千七百十一円、原告鈴木進(以下単に原告進という)同鈴木健(以下単に原告健という)に対してそれぞれ二百六十万四千八百三円宛及び右各金員に対する本件訴状送達の翌日より支払済にいたるまで年五分の割合による金員を支払え、訴訟費用は被告等の負担とする」との判決予備的請求として「被告等は各自原告明に対して六百八十九万二千九百八十三円、原告進同健に対してそれぞれ百六十六万六千六百六十六円宛及び右各金員に対する本件訴状送達のの翌日より支払済にいたるまで年五分の割合による金員を支払え、訴訟費用は被告等の負担とする」との判決

並びに右各請求につき担保を条件とする仮執行の宣言を求め、被告等訴訟代理人は「原告等の本請求及び予備的請求は何れもこれを棄却する、訴訟費用は原告等の負担とする」との判決を求めた。

第二、原告等の請求原因。

一、本件事故の発生。

被告斉藤文雄は被告鈴木和夫所有の普通乗用自動車多摩五も六五六八号(車台番号PH八〇〇・〇一九五四四)―以下単に加害車という―を借受け運転して昭和四十三年五月十二日午後八時五十五分頃幅員十二米の国道一三八号線を御殿場市から箱根方面に向い時速五十五粁の速度で走行中、御殿場市東田中九百八十一番地先に差しかかつた際折柄同所を横断中の鈴木あさ(当時五十五才)に自車の右前部を衝突させ、因つて同人に頸椎骨折、頭蓋底骨々折、右骨盤骨折兼挫創の傷害を与え即死せしめた。

二、右事故の態様。

本件事故は、当時加害車の走行していた国道が夜間降雨のため路面が光り前方の見通しが悪かつたのであるから、かような場合自動車運転者としては速度を落して前方を注視して運転し事故の発生を未然に防止すべき業務上の注意義務があるのにこれを怠り漫然従前の速度のまま加害車を運転した被告斉藤の過失に因るものである。

三、被告等の責任。

被告鈴木は加害車を自己のため運行の用に供したものとして自賠法第三条、第四条により、被告斉藤は民法第七百九条、七百十条、第七百十一条により各自本件事故によつて生ぜしめた損害についてこれを賠償する責任がある。

四、原告等のうけた損害。

原告明はあさの夫、同進、同健はあさの子供としてあさ死亡によりつぎのような損害を蒙つた。

(1)  あさの逸失利益及び慰藉料。

(イ) あさは原告等の家庭にあつて家事に従事し家庭内のきりもりをしていたもので、その寄与によつて原告等はそれぞれ稼動することができたのであり右家事労働の価値は一ケ年三十八万六千七百一円が相当であるところ、その死亡時の年令は満五十五年十ケ月で厚生大臣官房統計調査部刊行の生命表を基準とする就労可能年数は八・九である。これをホフマン式計算法により逸失利益を算出すると二百八十一万四千四百九円となる。

(ロ) あさは健康な家庭婦人であつたが本件事故により一瞬にして即死という悲惨な目に遇うにいたつた、その精神的損害を慰藉すべく五百万円が相当である。

(2)  原告明の物的損害及び慰藉料。

(イ) あさの葬式費用および四十九日法要として四十一万千九百八円を支出した。

(内訳、寺供養費、二万五千円。火葬費、千円。葬具一式、二十五万円。交通費、九百七十円。葬式の際の接待費その他諸雑費、九万三千百五十円。四十九日法要費用、四万千七百八十八円。)

(ロ) 原告明は二十八年間連れそつた最愛の妻を失い老後を心細く独り身で暮さなければならなくなつた。その精神的苦痛に対し慰藉料三百万円が相当である。

(3)  原告進同健の慰藉料。

原告進同健は本件事故により突然最愛の母を失い甚大な精神的苦痛を受けたのでこれを慰藉すべく各百万円が相当である。

本件事故に対する損害賠償として自賠法による保険金として三百万四千円(内四千円は救急車屍体処置費用に充当した)が支払われたので、あさ自身の慰藉料五百万円から右三百万円を控除し残二百万円とあさの逸失利益二百八十一万四千四百九円計四百八十一万四千四百九円につき、原告等はその相続人としてそれぞれ三分の一の百六十万四千八百三円あてを相続した。

よつて被告等は各自原告明に対し計五百一万六千七百十一円原告進同健はそれぞれ二百六十万四千八百三円及び右各金員に対する本件訴状送達の翌日から支払済にいたるまで民法所定年五分の割合の損害金を支払うことを求める。

五、葬儀費用と香典との関係について。

葬式の際弔問客から贈られる香典は過去において近隣者、知人、親戚間の不幸の際贈つた香典に対する返礼であり、将来香典の贈主に不幸のあつたときは贈らなければならない性質のものである。従つて事故原因とは関係なく贈り贈られるものであるから、たまたま本件のように交通事故に因つて死亡したのに対し遺族に香典がおくられたとしてもこれを損害額から控除すべきものではないし、原告明はあさの墓石建立費として三十四万五千円を支払いこの費用に香典は全部充当されている。そして原告明は本件損害の中に墓石建立費を含めていない。

六、損害額に対する予備的主張。

仮りにあさの家事労働の価値を逸失利益として計上できないとすればつぎのような理由によつて原告等は損害を蒙つたことになるので右損害について被告等に対しその賠償を求める。

即ち原告等の家庭はあさの死亡により家事を切り廻すものがなくなつたため、原告明は昭和三十六年八月から本件事故当時まで勤務していた、訴外伊豆箱根株式会社経営仙石温泉ホテルを昭和四十三年七月一日から休んであさの代わりに家事に従事することとなつたが、将来もこれを続けなければならないため同年八月右訴外会社を退職した。同原告は本件事故前右勤務先から年間三十八万六千七百一円の給与をうけており、同僚の中には現在七十才を超えて勤務しているものもいるから、少くともあさの就労可能年数である八・九年だけはあさに家事をまかせて右訴外会社に勤務し得た筈であるから、本件事故により右八・九年分の得べかりし収入を失つたことになる。その損害をホフマン式計算法により算出すると二百八十一万四千四百九円である。

そしてあさの死亡による慰藉料は前記のように五百万円が相当でありそのうち三百万円は自賠法による保険金で補填されたので残金二百万円につき原告等三名がそれぞれ三分の一の六十六万六千六百六十六円あて相続した。

よつて被告等は各自原告明に対し計六百八十九万二千九百八十三円(内訳、右逸失利益二百八十一万四千四百九円、前記(2)(イ)四十一万千九百八円同(ロ)三百万円、あさの慰藉料の相続分六十六万六千六百六十六円)原告進同健に対しそれぞれ百六十六万六千六百六十六円(内訳、あさの慰藉料の相続分六十六万六千六百六十六円、前記(3)の慰藉料百万円)あて及び右各金員に対する本件訴状送達の翌日より支払済にいたるまで民法所定年五分の割合による遅延損害金を支払うことを求める。

第三、被告等の答弁及び抗弁。

一、請求原因第一項のうち被告鈴木がその所有の加害車を被告斉藤に貸し同被告が加害車を運転中、主張日時、場所においてあさに右車を衝突せしめて同人を死亡せしめたこと、第三項の事実及び第四、五項のうちあさ死亡に因る損害につき自賠法による保険金三百万円が原告等に支払われたことは認めるが、本件事故の態様及び原告等の損害は否認する。

二、本件事故の態様とあさの過失による相殺の抗弁。

被告斉藤は本件事故現場に向つて走行中同国道上を横断中のあさを前方約二十一、三米手前で発見し、急ブレーキをかけ左へハンドルを切つたが間に合わず同人に加害車を衝突せしめたのであるが、同所を横断中のあさにもつぎのような重大な過失があつた。即ち、あさは本件事故現場を斜めに横断していたため加害車に対して背を向ける恰好となり同車を発見することができなかつたのである。

また、本件事故現場は国鉄御殿場線をまたがる陸橋を箱根方面に向つて渡りきつて下り勾配となつたところにあるので、此処を横断する歩行者にとつて極めて危険な箇所であるから当然歩道橋が設けられるべきであり、且つ又、事故現場の国道はその幅員が十二・一米あり、しかもバイパスでなく沿道に一般民家の並んでいる状況であるのに制限時速は六十粁と定められこれまた危険が大である。

さらに、右事故現場は夜間の照明設備が悪く前記陸橋を下つて来ると急に暗くなりあたかもトンネルの中に入るような感じであり前方の見通しは全く困難となる。

このように本件事故発生の原因には道路行政上の欠陥があり且つあさの前記過失が競合しているので相当の過失相殺が為されるべきである。

三、原告等の主張する損害に対する反駁。

(1)  原告等の主張する慰藉料はあさ固有分として五百万円、原告明分として三百万円原告進同健分として各百万円合計一千万円であるが、右額は現在交通事故による慰藉料として一般に認められている金額に比してあまりに高額である。

本件について遺族間の割り振りは義務者の関知するところではないが、本件事故の態様に鑑み総額二百万円位が相当である。

(2)  あさの逸失利益としては家事労働の価値を一ケ月二万円とみてその二分の一を生活費として差引き、平均余命年数九年の指数七・二七八五により算出した八十七万三千四百二十円とすべきである。

(3)  葬儀費用は通例では香典によつて賄いうるものであり、本件の場合最高二十万円が相当である。

以上を合計すると本件事故による損害は三百七万三千四百二十円であるがすでに三百万円を前記自賠法による保険金で補填しているので残額は七万三千四百二十円である。

しかもあさの前記過失は少くとも三十パーセントと見るべきである。そうするとこれを相殺した賠償金額は二百十五万千三百九十四円となり、原告等はすでにこれを上廻る保険金三百万円を受領しているので最早被告等に対して支払を求めうる余地なない。

原告等の予備的主張については、日本における家族制度から考えても、また原告等の家庭の家族構成から考えても妻が死亡したため夫たる原告明が息子の原告進夫婦のため自己の勤務先を退職して家事に専念する必要はないから、右退職による逸失利益をもつて本件損害に計上することは失当である。

第四、証拠。〔略〕

理由

一、争いない事実

被告鈴木和夫が加害車を所有するものであり被告斉藤文雄がこれを借りうけて運転中、昭和四十三年五月十二日午後八時五十五分頃御殿場市東田中九百八十一番地先国道一三八号線道路上において鈴木あさに加害車を衝突させ、よつて同人を死亡させたこと、あさの死亡につき原告等に対し自賠法により保険金三百万円が支払われたことは当事者間に争いない。

二、本件事故の態様と被告等の責任。

〔証拠略〕によれば、被告斉藤は新潟県直江津市において行われた友人の結婚式に参列後、前記日朝八時頃同市を出発し小田原市内の自宅に帰るべく甲府で同乗の友人訴外鈴木義郎と運転を交代し折柄相当の激しい降雨の中を国道一三八号線上を箱根方面に向つて時速五十ないし五十五粁の速度で走行中、国鉄御殿場線と立体交差する通称塚本跨線橋(以下単に跨線橋という)を渡り切つた地点附近まで差かかつたところ対向車とすれ違つた途端前方約二十米道路中央附近に鈴木あさが傘をさして箱根方面に体をむけ横断歩行している姿を発見し、急制動をかけたが路面が雨で濡れていたため車輪がスリツプしあさの背部に加害車の左前照燈附近を衝突させ約二十米走つてようやく停車したこと、あさは一旦加害車のボンネツト上にはね上げられた後右停車地点附近路上に落され頸椎骨折、頭蓋底骨折、骨盤骨折兼挫創により即死したこと、跨線橋の勾配は約五パーセントで事故現場にかけてゆるやかな下り坂となつてほゞ直線に箱根方面に通じており、跨線橋上には約五十米間隔にオレンヂ色の街路灯が設備されているが、これにつづく国道には照明設備なく歩車道の区別はなく事故現場南側には民家があるが北側は田で附近一帯に暗く、跨線橋から事故現場に向け走行して来る場合対向車が前示被告斉藤のあさを発見した地点にまで接近すると一瞬前照燈の光線の影響により佇立する人影が見えなくなる状況であること、被告斉藤は本件事故現場ははじめて通行する道であり跨線橋を下つた途端道路上が暗くなり横断者の有無を見極めることが困難な道路事情であることは知らなかつたこと、が認められ以上の認定事実から判断すると被告斉藤は相当激しい降雨の中を不案内な道路であり現場附近が歩車道の区別なくその南側に民家が存在する状況から考え、右道路を横断するものがあること且つ進行方向前方に横断者が現われた場合には急制動をかけても雨でタイヤがスリツプして直ちに停車措置が取りえないことが予見されるにも拘らず減速措置もとらず跨線橋から下り坂を漫然と前示速度で走行したため本件事故を発生せしめたものと言わなければならない。

然し乍らあさにおいても本件事故現場附近は横断歩道が指定されていないことでもあり疾走して来る車のあることは当然予想されるのであるから、右国道を傘をさして横断するには左右の車の通行をよく見きわめ衝突等の危険を未然に防止すべきであるのに、跨線橋を渡つて下つて来る車の姿を十分見通せない位置を、箱根方面に向つて走行する車に対して後向きの姿勢で歩行していた過失があり、両者の過失の割合は被告斉藤が七十パーセント、あさが三十パーセントと見るのが相当である。

よつて被告等は何れも自己のため加害車を運行の用に供したものとして各自右割合をもつてあさ死亡により生じた損害についてこれを賠償すべき責任がある。

三、原告等の損害。

〔証拠略〕によるとつぎの事実が認められる。

(一)  原告明はあさと昭和十二年四月内縁関係を結び昭和十五年二月一日婚姻届を為し、その間に原告進(昭和十五年五月十日生)同健(昭和十九年七月一日生)が出生した。本件事故当時原告明は訴外伊豆箱根株式会社経営の仙石温泉ホテルに住込勤務して接客業務に従事し、昭和四十二年度の食費を除く税込年収は三十八万六千七百一円であつた。また、原告進は自衛隊に勤務し婚姻中の妻安子は昭和四十三年春頃から原告等居宅につづく店舗において美容院を経営しはじめたところであり、原告健は独身で訴外駿河信用金庫に勤務中である。

なお、本件事故後原告明は引きつづき勤務先を休み昭和四十三年八月退職し原告進の妻安子が美容院の仕事をする間家事に従事するようになつた。

(二)  あさの蒙つた損害。

(1)  逸失利益。

あさは明治四十五年七月二十日出生し原告と結婚以来健康で病気で寝つくようなこともなく原告等の家庭にあつて家事に従事し、原告進の妻安子が前示の如く美容院を経営するようになつたためやがて生れる孫(原告進妻安子の長男善雄―本件事故直後の昭和四十三年五月二十五日出生した。)の守も引きうけ家事一切を切りもりする所存であつたが、本件事故により即死するにいたつた。

右あさの逸失利益を算定する方法についてはいわゆる家事労働に専念する妻の逸失利益として議論のあるところであるが、当裁判所は妻の家事労働に対する財産的評価は夫婦の対内関係や遺産相続に関して論ずる場合と、本件の如く第三者から不法行為により生命・身体を害された場合にその損害の賠償を求める場合とでは異なる観点から算定さるべきものであると思料する。そして後者の場合において妻の家事労働の財産的価値を夫の収入に対する寄与として把握し、その寄与率を夫の収入の五十パーセントと見る考え方は、夫の収入の多寡によりその価値が増減し、たまたま夫が無職であつたり失職中の場合には算定しえない結果となるなど必ずしも当を得た結論を導き出し得ないので採用することは妥当でなく、その家事労働の内容に特段の事情が認められないときは、その財産的価値は労働内容が類似する家政婦の収入をもつて擬するのが相当であると考える。

原告等居住地域における家政婦の平均収入は証拠上明らかでないが、現今、家政婦の収入は最底一日千円以上であることは最早公知の事実に属するところ、一般有職者の稼働事情に照らしその稼働日数は一ケ月二十五日とみるのが相当である。

かようにして算定したあさの一ケ月間の収入は二万五千円であるがそのうち五十パーセントは自己の生活費に充当さるべきものとし、従つて残金一万二千五百円が一ケ月の逸失利益となるところ、あさは本件事故により死亡するまで健康で過去において病気らしい病気に罹つたこともなく過していたことを考え合わせ、少くとも満六十五才まではなお十分家事労働に従事しえたと考えられるから、その死亡時の年令満五十五年十月を満五十六年に切上げ向後九年間稼動し得た場合の逸失利益をホフマン式計算法により算出すると百九万千七百七十五円となる。

(2)  慰藉料。

本件事故により即死せしめられたあさの慰藉料として金二百万円が相当である。

(三)  原告明の損害。

(1)  葬儀費用。

原告明はあさの葬儀に関して大乗寺に対する布施代等、寺への供養費として二万五千円火葬費千円葬具一式等二十五万円弔問客送迎のための車代として九百七十円あさの死体清めのためエタノール代三百五十円を支払つたことが認められる。同原告はこの外、弔問客に対する接待費雑費として九万三千百五十円(右エタノール代を含む)、四十九日法要費として四万千七百八十八円を支出した旨主張し右金額を本件損害額に計上するけれども、後者については本件損害額の範囲に含めるのは相当でなく、また、前者について甲第十二号証はその記載内容が明確でなく(殊に末尾商店名と金額との関係)且つその計算も不精確で明らかに香典返し費用と考えられる支出(サトー二百五十袋代三万二千五百円)も記入されている(なお香典返しは受けた香典の範囲内しかも多くの場合二分の一程度で返礼として贈るものであるから損害賠償の対象とすべきものではない。)が、〔証拠略〕をあわせると一斗五升の酒代や百二十人前の刺身代をはじめおびただしい飲食代が計上されており、これに関し証人渡辺利明原告明同進同健の供述中に原告等居住地域の慣行として通常本件葬儀程度の規模のものが行われること、弔問に来る近隣居住者に対する接待費は近隣との交際上不可欠なものである旨の供述部分があるけれども、他面右各供述中には原告等居住地域では葬儀の際近隣の住民相互で香典として三百円ないし五百円程度をもちより、自治会の班長が主となつて葬儀をとりしきり香典をもちよつた者達が飲食などをすることも認められる。

そして右事実から判断すると、右弔問客等の葬儀に関して寄り合つた期間の飲食費をすべて葬儀必要経費として本件損害に計上すべきものではなく、結局常識的に是認しうる程度の弔問客への接待費用を含めて総額三十万円(従つて接待費用としては二万二千六百八十円)の限度において本件葬儀費用として認容するのが相当である。

なお甲第十七号証記載のサインペン代同第二十一号証記載の卓上ポツト代同第二十二号証記載のプロパンガス代も本件葬儀費用必要経費とは認め難い。

(2)  慰藉料。

あさとの結婚生活三十一年余を過ごし老境に入つた原浩明があさを失つたことに対する精神的苦痛は、同原告があさの相続人としてあさ固有の慰藉料をもあわせ求めていることを勘案してこれを慰藉するのに百万円が相当である。

(四)  原告進同健の損害。

同原告等が母あさを失つたことに対する慰藉料として同原告等があさの相続人としてあさ固有の慰藉料をもあわせ求めていることを勘案してそれぞれ五十万円が相当である。

(五)  原告明はあさの配偶者として、同進同健は各直系卑属としてそれぞれ三分の一の割合であさの蒙つた損害賠償請求権を相続したから各原告等の右取得分は百三万五百九十一円である。

従つて原告明は右百三万五百九十一円及び(三)(1)(2)の金員百三十万円合計二百三十三万五百九十一円、原告進同健はそれぞれ百五十三万五百九十一円の損害額となるところ、前示の割合で過失相殺を為す結果原告明は百六十三万千四百十三円原告進同健はそれぞれ百七万千四百十三円を請求しうべきであるが、既に自賠法による保険金三百万円を受領しているので原告等の相続分に応じ百万円宛右損害額に補填されるべきである。

そうすると、被告等に対し各自原告明は残額六十三万千四百十三円、原告進同健は残額各七万千四百十三円及び右各金員に対する被告鈴木については本件訴状が同被告に送達された日の翌日であること記録上明らかな昭和四十四年三月十八日以降、被告斉藤については同じく昭和四十四年三月二十六日以降支払済にいたるまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で本訴請求を認容することができるが、その余は失当であるからこれを棄却するものとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八十九条第九十二条第九十三条、仮執行の宣言につき同法第百九十六条第一項を各適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 永石泰子)

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